兼島です。
2021年ももう4か月が過ぎ、あっという間にゴールデンウィークが近づいてきましたね。
暖かさを通り越して暑いと感じる日も増えてきました。
季節の変わり目なので、体調に気を付けて頑張っていきましょう。
さて、今回は珍しく?法律の話を書きたいと思います。
私たちの暮らしに身近な消費者契約と特定商取引の概要について説明します。
第1 消費者契約法
1 そもそも消費者契約とは?
消費者契約とは、消費者(個人)と事業者(法人その他団体・個人事業者)との間で締結される契約のことをいいます(消費者契約法(以下省略)2条3項)。
消費者と事業者では情報の質・量や交渉力に差があるため、消費者は事業者に言われるがままに契約をしてしまい騙されてしまうことがあります。
そのような消費者を保護するためにあるのが、消費者契約法です。
2 どのように消費者は保護されるの?
1)契約の取消し
消費者契約法第4条は、消費者契約の申込みや承諾の意思表示の取消しができる場合について規定しています。以下,各類型について見ていきたいと思います。
ア)不実告知(4条1項1号)
重要事項について事実と異なることを告げられ,消費者がそれを真実だと誤認して契約した場合です。
例:事業者が「この機械を付ければ電気代が安くなる」と勧誘し,消費者がその説明を信じて購入したが,実際にはそのような効果のない機械であった。
イ)断定的判断の提供(4条1項2号)
将来における変動が不確実な事項について確実であると告げた場合。
例:将来値上がりすることが確実ではない金融商品を「確実に値上がりする」と説明して販売した。
ウ)不利益事実の不告知(4条2項)
消費者の利益となる旨を告げながら,重要事項について不利益となる事実を故意に(又は重大な過失によって)告げなかった場合。
例:眺望・日照を阻害するような高層マンションの建設計画があることを知りながら,そのことを説明せずに「眺望・日当たり良好」と説明してマンションを販売した。
エ)不退去(4条3項1号)
消費者が事業者に対し,退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず事業者が退去しなかった場合。
例:消費者の自宅等において,消費者が何度も帰ってほしい旨伝えているのに勧誘を続けて販売した。
オ)退去妨害(4条3項2号)
消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず消費者を退去させなかった場合。
例:事業者の販売店等において,消費者が何度も帰りたい旨告げているのに勧誘を続けて販売した。
カ)不安をあおる告知(4条3項3号。就職セミナー商法等)
消費者が社会生活上の経験が乏しいことから,願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら,不安をあおり,契約が必要と告げるなどした場合。
例:就活中の学生の不安を知りつつ,「このままでは一生成功しない,この就職セミナーが必要」と勧誘した。
キ)好意の感情の不当な利用(4条3項4号。デート商法等)
消費者が社会生活上の経験が乏しいことから勧誘者に好意の感情を抱き,かつ,勧誘者も同様の感情を抱いていると誤信していることを知りながら,契約しなければ関係が破綻すると告げた場合
例:SNSで知り合った異性と何度か連絡をして好きになった。宝石展示場に誘われて行ったところ「買ってくれないと関係を続けられない」と告げられ宝石を購入した。
ク)判断能力低下の不当な利用(4条3項5号)
加齢や心身の故障により判断能力が著しく低下していることから,現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら,不安をあおり,契約が必要と告げる場合
例:加齢により判断力が低下した消費者に対し,「投資用マンションを買わなければ,定期収入がなくなり今のような生活を送ることは困難である。」と告げて勧誘し契約させた。
ケ)霊感等による知見を用いた告知(4条3項6号)
霊感等の特別な能力により,消費者にそのままでは重大な不利益が生ずることを示して不安をあおり,契約が必要と告げる場合
例:「私は霊が見える。あなたには悪霊がついておりそのままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る。」と告げて勧誘し契約させた。
コ)契約締結前に債務の内容を実施すること等(4条3項7号)
契約締結前に,契約による義務の一部を実施し,実施前の現状の回復を著しく困難にしたうえで契約を迫る場合
例:事業者が,注文を受ける前に,自宅の物干し台の寸法に合わせてさお竹を切断し,代金を請求した。
2)契約条項の無効
消費者契約法第8条ないし第10条は、消費者の利益を不当に害する契約条項が無効となる場合について規定しています。
事業者は一切の責任を負わないとする条項やいかなる理由でも消費者は解除できないとする条項,成年後見制度を利用したら解除する旨の条項,過大な違約金を定めた条項,
その他消費者の利益を一方的に害する条項などは無効になるとされています。
3)権利行使のタイミング
以上でみたように,消費者契約法では契約の「取消し」や「無効」を認めることによって消費者保護を図っています。
ただし,契約の取消しをするためには,消費者が誤認をしていたことに気づいた時や困惑の状態を脱した時など,取消の原因となっていた事情が無くなった時から1年以内に取消権を行使する必要があります。
また,契約を締結してから5年を経過した場合も取消権を行使することができなくなるので注意が必要です(7条1項)。
第3 特定商取引法(特定商取引に関する法律)
1 そもそも特定商取引とは?
特定商取引とは、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供・業務提供誘引販売・訪問購入に関する取引のことをいいます(特定商取引法(以下省略)1条)。
以下,各取引について簡単に説明します。
1)訪問販売
消費者の自宅等を事業者が訪問し,商品の販売等を行うものをいいます。室内に限らず,路上等におけるキャッチセールスも対象となります。
2)通信販売
消費者がテレビやホームページ等の広告を見て,電話,FAX,インターネット等で申し込みをするものをいいます。
3)電話勧誘販売
消費者に事業者が電話をかけて勧誘し,商品の販売等を行うものをいいます。
4)連鎖販売取引
「他の人を販売員にするとあなたも収入が得られる」と消費者を勧誘し,商品等を買わせるものをいいます。いわゆるマルチ商法の一つです。
5)特定継続的役務提供
特定の7種類のサービス(エステティック,語学教室,家庭教師,学習塾,パソコン教室,結婚相手紹介サービス)について,長期・高額の契約を締結して行うものをいいます。
6)業務提供誘引販売取引
「仕事を紹介するので収入が得られる」と消費者を勧誘し,その仕事に必要であるとして,商品等を買わせるものをいいます。いわゆる内職商法の一つです。
7)訪問購入
消費者の自宅等を事業者が訪問し,消費者の物品を事業者が買い取るものをいいます。
これらの取引においては、事業者による悪質な勧誘行為等により契約トラブルが生じて消費者が被害を受けることがあります。
そのような消費者を保護するためにあるのが、特定商取引法です。
2 どのように消費者は保護されるの?
1)事業者への各種規制
特定商取引法では,上記の各類型ごとに,事業者が守るべきルールを定めています。例えば,訪問販売を行う事業者は,氏名等を開示すること(3条),拒否する消費者への勧誘をしないこと(3条の2第2項),
法定の事項が記載された書面の交付すること(4条)等のルールを遵守しなければいけません。
これらのルールを守らない事業者については,業務改善の指示(7条)や業務停止命令(8条),業務停止命令(8条の2)等の行政処分の対象となるほか,罰則も規定されています。
2)クーリング・オフ
クーリング・オフとは、申し込みまたは契約の後に,法定の書面を受け取った時から一定の期間内に限り,同契約を無条件で解約できる制度です。
1で述べた特定商取引のうち通信販売以外の6つの取引類型で適用されます。
一定の期間とは,訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入は8日間、連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引は20日間とされています。
なお、特定商取引法が適用されない取引(適用除外)については各類型ごとに細かく定められているので注意が必要です。
3 消費者契約法との違い
消費者を保護するという点では消費者契約法も特定商取引法も共通しています。
しかし、特定商取引法は悪質事業者の規制も目的としているため、主務大臣による悪質事業者の業務停止命令等の行政処分や罰則の規定がある点で消費者契約法と異なります。
また、クーリング・オフについても、書面による撤回・解除の意思表示が必要とされている点で消費者契約法の取消権とは異なります。
第4 まとめ
今回は,消費者契約法と特定商取引法の概要について説明しましたが,ご自身の行った取引について,これらの法律の適用があるかどうかはなかなか判断できないかと思います。
そのため,何かおかしいと感じたり不安なことがあれば、まずは誰かに相談してください。弁護士に相談していただいても良いですし、消費者庁のホットライン(188)に問い合わせてみるという方法もあります。